「経済がいい」って何? 前編
(三幸 画)
テレビなどで「アベノミクスで景気好調!でも実感はあまりない……どうしてだよ!」といったことがよく報じられます。そういうわけで、我々は今、経済が良いのか悪いのかが今一つはっきりしない状態ではないかと存じます。
そもそも、「経済が良くなる」とはどういうことなのでしょうか。
本日は「経済が良い」とか「悪い」といった状態について、明確な定義を明らかにしたいと思います。我々がなんとなく思っているであろうイメージから、偉い評論家や学者さんがする定義に至るまで、この女性と間違われたことが四回もある三幸靖麿呂が徹底検証します。
ただし、できるだけ手短に、そしてやさしく解説するつもりでございやーす。
第一節 株価かな?
テレビなどでたまにやっている「経済のニュース」というと、大体「今月のにっけー平均株価はどーたらこーたらでございやーす」といったものを思い出されるかと存じます。そして、不景気のニュースだと「不景気で株価が暴落…」といった調子で、最近よくあるニュースだと「株価が過去最高に」といった感じです。
ですから「経済が良いとか悪いって結局株価のことだよね?」というイメージが根強いように思われます。
しかし!これをご覧下さい。(*1)
これは、日本の株価(日経平均株価)とアメリカの株価(NYダウ)の推移です。
よく見ると、2005年からこの二つの折れ線グラフはほぼぴったり寄り添って移動しているのです。実は、日本の株価はアメリカの株価の影響を受けて、それを軸に動いているのです。
したがって、日本の景気が良くなろうと、悪くなろうと、株価にはちっとも反映されません。
そもそも日経平均株価は上場した大企業(一言ではちょっと説明しにくいですが、とにかくすごいということ)の株価の平均であって、我々庶民の生活には大して関係のないものです。
株価は経済の良さにあらずッ!
第二節 もうググってしまえッ!
もう面倒臭いのでググってみましょう。
・ 好景気(こうけいき) : モノがよく売れたり、収入が多くて生活が楽な時代や状況のことを 好景気(こうけいき、英:boom) あるいは 好況(こうきょう) と言う。
(↑このhttp長過ぎ)
例えば神様が私に100兆円お与え給(たも)うとします。そうすると私は極めてウハウハになり、父に高級のゴルフクラヴを贈り、母にブランドの服を贈り、「ジョジョの奇妙な冒険」全巻と「岸辺露伴は動かない」を揃え、荘厳な屋敷を建て立派な本棚を設置して、ニートになった友人に毎月お金を送ることでしょう。このように、人は経済的にウハウハになると、「消費」するようになります。
私が消費した多額のお金はスポーツメーカー、ファッション企業、書店、集英社、建設業者といった「企業」に伝わっていきます。消費が多くなればなるほど、企業はウハウハになります。ウハウハになった企業は私と同様に色々なことをはじめます。技術開発や設備投資(生産性を上げる為、より便利な機械などを買うこと。物不足を防ぐと同時に企業による企業への消費となります。)、新しい店を開いたり、また、その為にもっと人を集めるべくお給料を上げたりするでしょう。
お給料が上がるとさらに消費者がウハウハして消費しまくります。そうなると企業もさらにウハウハします。ウハウハした企業は技術開発、設備投資、そしてお給料も上げます……
と、このようにしてお金が国中を巡り、経済的なウハウハをどんどん伝えていく状況を経済が良いとか、好景気というわけです。
(↑好景気の図 筆者作)
前述の通り、好景気になると消費が増えます。これは消費者に余裕が出てきたからです。ということは、ちょっと高いものでも買ってくれる人が出てくるわけです。
そうなると一円でも儲けたい企業たちは商品の値段を上げます。商品の値段が上がると必然、物価(物の価値)が上がります。値上げしても景気が良いので売上はやっぱり増えます。給料も上げれます。さらに値上げしても大丈夫になります。また物価が上がります。
このように、好景気になると物価がどんどん上がっていく現象が始まるわけです。
そして物価が上がり、お金の価値が下がっていくことをインフレーションといいます。
反対に経済が悪いと、物価が下がってお金の価値が上がり(詳しくはこちらに解説しております)、これをデフレーションといいます。
その為、
「好景気=インフレ」
「不況=デフレ」
といった解説がされることがよくあります。
第三節 物価かな?
そう考えると、物価の高さが景気の良さと定義できるような気もします。
しかし、物価が上がるのは上記のようなハッピーな要因ばかりではありません。例えば石油の価格が上がると、我が国の製品の多くは石油でできているので、企業は苦しくなり、値段を上げざるを得ません。
これでは経済が良いとはとても言えないわけであります。
(↑石油危機直後の狂乱物価と呼ばれた時代https://images.app.goo.gl/Ty3RCDEMHEvUr9hk7)
また、消費増税も事実上、強制的に物価を引き上げる政策ですが、不景気をもたらし、最終的にはデフレになります。詳しくは拙稿の消費増税シリーズをご参照下さい。
物価は経済の良さにあらずッ!
第四節 平均給与かな?
先ほど引用したwikibookの文章には、好景気について
収入が多くて生活が楽な時代や状況のこと
とありました。
「じゃあ平均のお給料が上がっていたら好景気じゃん!」と思われる方がいらっしゃるかと存じます。
では、僕が二秒で考えた架空の存在、さとし君の例を見てみましょう。
さとし君のお父様のお給料は確かに上がりました。しかし、いざスーパーマーケットへ向かえば、物価が急激に上がっていたのです。これでは満足に物が買えず、さとし君の家庭は貧しくなってしまうわけです。
物価が上がった要因は第三節で述べたような、石油の高騰だったり、消費増税が原因だったりするのでしょうが、いずれにしても物価が上がる(インフレになる)とお給料は増えるものです。
なぜなら、インフレとは物の価値が上がり、お金の価値が下がる現象なのですから。
ですから、お給料が上がったから好景気、というわけにはいきません。
平均給与は経済の良さにあらずッ!
第五節 実質賃金かな?
では、お給料から物価の動きを加味(かみ)すれば問題なくなるのではないでしょうか?つまり、物価が上がったせいで裕福になったように錯覚した分を差し引けば、本当の大きさが分かるのではないでしょうか。
例えば、先月のお給料が30万円だったとします。今月は40万円でした。そして物価は先月よりも1.5倍上がりました。この場合、物価が1.5倍上がったせいで、その分豊かになったように錯覚してしまっているわけです。では、1.5で割れば本当の大きさに戻るわけです。
本日の経済用語
実質賃金……平均賃金に物価の動きを加味したもの。実質的な賃金。
この場合、実質賃金は先月を基準にして(40÷1.5)万円なので、約26万7000円になります。つまり、先月よりも実質賃金が3万3000円減り、貧しくなったことが明らかとなるわけです。
そういうわけで、実質賃金こそ我々の豊かなのであります!
結論 実質賃金は経済の良さの程度である!
と、思っていたのですが、実はこの考えについても色々と論争が繰り広げられているのです。
第六節 実質賃金じゃないのかな?
それは、飽(あ)くまで実質賃金は平均値であるということです。その為に、「ニューカマー効果」なるものが指摘される場合があるのです。
本日の経済用語
ニューカマー効果……失業問題が解決するがニューカマー(新しい従業員)が来る影響で、平均賃金が下がってしまう現象。
ニューカマー効果については経済評論家の上念さんが分かりやすく解説しております。
(チャンネルくららよりhttps://youtu.be/BXCti99aWmI)
この図には、Aさん、Bさん、Cさんの三人の人物が登場します。Cさんは去年、失業者で、給料も当然0でした。
ところが今年、経済が良くなってCさんは職を得ます。経済が良くなると、企業はもっと人を雇おうとするからです。さらに、AさんBさんのお給料も上がります。この状態は紛(まご)うことなき「好景気」であると言えます。
しかし、好景気であるのに関わらず、この場合平均賃金が下がってしまうのです。
なぜなら、ニューカマー(新参者)であるCさんはまだ高い給料を貰っていないからです。去年、Cさんのお給料は0でしたが、失業者なのでこの0は平均賃金の計算に含まれていなかったのです。
上念司さんはこのニューカマー効果を唱え、実質賃金を重視する人を「実質賃金ガー」と揶揄(やゆ)しています。
そして、本当の経済の良さは実質賃金ではなく、失業率や就業者数(職業に就いた者の数)などの「雇用」の状態を表す数値を見れば分かると断言しました。なぜなら、前述の通り、経済が良いと企業が人をたくさん雇おうとするからです。
実質賃金は経済の良さにあらずッ!
雇用こそ経済の良さであるッ!
と思いきや、これにもまた反論をする方が現れます!
どんな反論かというと、それは次回をお楽しみに!それではまた来週!
*1 「グラフメーカー」によって、筆者がYahooファイナンスを元に作成、