サスペンス香港
むかしむかし、イギリスの植民地に「香港」というところが加わりました。それから百年後、人種平等を支持する国際世論や、日本との対決で力が衰えた為に、イギリスは香港を手放すことになりました。香港は元は中国から奪ったところです。ですから必然、香港は中国に返さなくてはなりません。しかし、香港は中国の一部になることを大変嫌がりました。中国はとても不自由な国だからです。そこで中国は「香港だけには特別に自由を許すよ。香港の政治には手出ししないよ」という約束をしたわけです。こうして香港は中国に所属することになりました。
今回はそんな香港を取り上げてみたいと思います。
この物語はノンフィクションであり、実在する事件、団体、人物に基づいております。しかし、結構テキトーな部分もありますので悪しからず。
でははじめます。
灰色の空がまるごと落ちてきているような音が聞こえる。九月に入ったところだから、そろそろ雨季は終わるだろうか。それにしても、なぜ香港はこうも長い雨季というものがあるのだろうか。
そう言えば、去年のあの時も、確かにこんな雨が降っていた。
2015年の十月、夫がいなくなった。夫だけではなく、その仕事仲間も相次いで失踪したらしい。あまりにも突然過ぎた。なぜ消えたのか、どこへ消えたのか、見当もつかなかった。
ある人は、夫は中国の連中に消されたのだという。本屋をやっていた夫は、習近平や共産党を批判する本を置いていたのだ。この噂はどんどん広がり、いつしか夫の失踪はかなり有名になった。
はじめ、わたしはその推理がどうも納得いかなかった。香港は自由な国なのだ。中国のように、政権批判をすればたちまち弾圧されるようなディストピアではなかったはずだ。ネットだって自由に使える。あちらは「一つの中国」などと言ってはいるが、有名無実だと信じていた。
しかし、同じような事件を耳にしなかったわけではなかった。中国を批判していた者が、ある日突然消えるという事件を。雨傘革命に参加していた友人も確かこう言っていた。
「香港の政治はまるで自主性がない。考えてもご覧、中国に都合の悪い者は立候補すらできないだろ。こんな選挙、やる意味あると思うかい」
そうして、わたしは次第に夫に何が起こったのかを理解しはじめた。
「…おや?」
耳を澄ます。凄まじい雨音の間から、ジリンジリンという金属音が漏れている。急ぎ足で電話の元へ行き、受話器をとった。
「もしもし」
「…………」
真っ暗な雑音だけが流れている。
「もしもし。林(りん)ですが」
もう一度繰り返す。
「……俺だ」
わたしは口を開けたまま何も話すことができなかった。確かにその声は夫だったのだ。数秒間、雑音だけが流れる。
「どこにいたの」
暫くの沈黙の後、夫は答えた。
「…中国」
「一体何があったの」
「……」
間もなく、ブチリという鋭い音で雑音は断絶された。そして、灰色の空がまるごと落ちてきているような音が響いている……。
さて、冒頭で申し上げました通り、この物語はノンフィクションでございます。舞台である香港は、中国に属しながらも至って自由な社会が成り立っていました。…と、信じられていました。しかし、不自然な事件の頻発に香港国民(ふつう「香港国民」とは呼びませんが、彼らへの賛同の意を込めて本稿ではこう呼称します)が気づき、恐ろしき疑惑が確信へと変わっていくのでした。この恐怖に立ち向かう運動こそ、香港で行われているデモなのです。
このデモの凄いのは、何といっても若者が中心となっていることですね。
中高生が授業のボイコットを行う様子は、テレビでも度々報じられました。高校生である筆者は「ひょっとしたらはわたしは香港人なのでは」などと思ったりします。
「いきなり何だこの写真は。アイドルか何かか」と思われるかもしれませんが、驚くべきことにこの人は香港デモを率いている学生の一人。名前は周庭(しゅうてい アグネス・チョウ)といいます。タイプだなあ。
彼らの要求は五つ。
一、逃亡犯条例改正の完全撤回
二、独立調査委員会の設置。警察の暴力を責任追及
三、デモについて「暴徒」などと認定したことについて撤回
四、理不尽に逮捕されているデモ参加者の釈放
伍、普通選挙の実現。林鄭月娥(りんていげつが キャリー・ラム)行政長官の退任
特に注目すべきが「逃亡犯条例改正」です。もし「逃亡犯条例」の改正が行われると、香港で逮捕された人を、中国へ引き渡すことが可能になります。共産党からすれば、都合の悪い香港人の始末が比較的スムーズになるわけです。
デモの参加者は主催者発表で二百万人。ただし、香港大学の葉兆輝という教授の推定では五十~八十万人。その間をとって六十五万と考えても、香港国民の十一人に一人が参加している計算になります。
警察は残虐な暴力によってこれを弾圧。しかし香港国民は挫けず、活動を続けました。そして今月の十日、林鄭月娥(りん ていげつが キャリー・ラム)行政長官は逃亡犯条例改正を一時撤回します。
↑林鄭月蛾さん
香港国民の要求は完全撤回ですから、もちろん彼らが勝ったわけではありません。しかし、綱引きにおいて、相手が一歩こちら側に引きずられた様子を想像して下さい。国民の運動は僅かながら、政府を引っ張ったのです。この点、日本人は見習うべきだと深く感じます。「どうせ何も変わらない」などと不貞腐れている方が多いですが、必死に活動すれば政治を変えることは可能なのです。国民が努力して政治を動かす、それこそが民主主義であると考えます。
さて、民主主義をテーマとした壮大な戦いである香港デモですが、わたしはこれに賛同する一方で、懸念する点が二つあります。
一つは「第二の天安門事件」です。
■第一の懸念 天安門事件
民主化を訴えた国民に対し、中国人民解放軍が戦車のキャタピラでこれを踏みにじった事件。このままではこれが再び起こるかもしれません。ニュースでは香港のデモは激しい部分が取り上げられ、「暴徒」と呼ぶ向きもあります。習近平がこれを利用し、「香港で起きたテロを鎮圧する」という大義名分で軍隊を出動させる可能性は充分に考えられるでしょう。そうなった場合、いくら香港国民の意志が強くても、こればかりはどうにもならないのです。
つまり香港を守る為には、我々日本をはじめとする国々が中国共産党に圧力をかけることが必要であるわけです。具体的に何をすべきかと言えば、香港のデモが暴徒ではないという認識を広めることが考えられるでしょう。
そんなことを言うと、こんな指摘があるかもしれません。
「香港のデモが暴徒じゃないだと?じゃあ何でこんなことが起きたんだ!」
香港国際空港を運営する香港空港管理局は、きょう8月12日に香港を出発する全便を欠航すると発表した。ブルームバーグなどが伝えた。
香港国際空港が一度全便欠航をすることがあった。それほど香港のデモは激しかったということだ、というわけです。
しかし、本当に香港デモが激しかったが為に、同空港は欠航を実施したのでしょうか?
これは当時の香港国際空港の様子です。確かにデモの参加者は多く、その迫力はただならぬものがあるでしょう。しかし、決して物を破壊したり、暴力によって空港の営業を妨害しているわけではありません。彼らはゲートを自ら築くなど、利用客に配慮して活動を行っているのです。
同空港が欠航を行った理由は別にあると思います。それは、
一、ボイコットによる人手不足
二、デモを暴徒と印象づける為
これは、デモ隊がごみの回収を行っているところです。決死の活動を行いつつも、街を汚さぬように努力しているわけです。
こちらは通りがかったタクシーを通す為、道を開けるよう呼び掛けている様子です。
このように、他の人へ配慮し、規律を以てマナーを守る活動が、果たして「暴徒」と呼べるのでしょうか。
(香港デモの実態についてより詳しく知りたい方は、是非この動画を視聴下さいhttps://youtu.be/0albOgOxwME)
もちろん、全てのデモ隊がこうであるとは言いません。しかし、我が国のマスメディアはデモの暴力的な部分ばかりを強調し、さも暴徒であると見せかけようとしているように思います。その理由の一つは中国共産党への忖度かもしれません。周知の事実として、共産党は世界中にお金をばらまき、メディアに影響を与えているのです。
しかし、もし我々が「彼らは暴徒ではない」と叫べば、共産党は軍を出動させる正当性を失うでしょう。
■第二の懸念 香港のアメリカ属国化
ところで、香港のデモでは多額のお金が使われているのが伺えます。果たして、自分たちだけでこんな活動を維持するようなお金を捻出しているのだろうか、ということで黒幕説を唱える評論家や作家が少なくありません。その黒幕というのは、大方のところアメリカのCIAだと考えられています。
「まァァた陰謀論かよ!いい加減にしろ!」
と言われるかもしれませんが、国家が他国の世論に影響を与えるというのは陰謀などではなく、公然たる事実です。これは「パブリック・ディプロマシー(PD)」と呼ばれています。パブリック・ディプロマシーは一部のヤバい国が行っているわけではなく、国際社会では当たり前の行為です。やっていないのは日本だけなのです。
因みに中東やアフリカで起きた民主化運動「アラブの春」についても、アメリカ黒幕説が指摘されています。
では仮に、香港デモがアメリカの影響を受けているとしたらどうなるのでしょうか。もし彼らのデモが成功し、習近平に勝利したとしても、今度はアメリカの属国になるかもしれません。香港が真の意味で独立国となる為には、中国から独立を勝ち取るだけではなく、アメリカとも戦わなくてはなりません。
中国との対決。アメリカとの対決。香港のデモはこの前後編に構成された壮大なものなのかもしれません。前編は勝てたとしても、後編は実に困難です。香港という小さな島が自力でアメリカに勝利するとは考えにくく、かといって中国やロシアなどに頼るとなると、前編への後戻りとなるだけです。
だからこそ、わたしたち日本の出番なのかもしれません。日本が香港の運動を支援し、本当の意味での独立国「香港」の建国を助けるべきだと考えます。勿論、日本だけの支援に偏ると、香港は日本の属国となる可能性があります。ですから、様々な国から支援を呼び掛け、バランスの良い内訳で支援をしたいものです。
こうしたことを日本が実行する為には、アメリカ寄りでも、中国寄りでもない政権を誕生させなくてはなりません。それは日本の独立を意味します。少なくとも、安倍総理はそれに当てはまらないでしょう。
■あとがき
ちょっと物騒な話ですが、家畜がなぜ難なく屠殺されるのかご存知でしょうか。一匹ずつ家畜を屠殺していくと、いつか仲間が消えていることに気づく家畜が出てきます。「なぜあいつは消えたのだろう。ひょっとしたら殺されたのではあるまいか。かわいそうだな」なんて思う者もいるかもしれません。しかし、自分が次の番であるとは思いもよらないのです。わたしたち日本も、そうした状態にあるとは言えないでしょうか。
現在、北海道では中国資本による土地の爆買いが進んでいます。そのほとんどは、極めて貴重な水源地や、あるいはどう考えてもビジネスには有用でなく、そして軍事的には有用な土地です。
わたしは断言します。今日の香港は明日の日本であると。そして、何かが起こってから動くのでは遅い、何か起こる前にそれを阻止しなくてはならないのだと。
最後までお読み頂き……
あ、そうだ。冒頭の小説に登場した女性の旦那様のことですが、モデルとなったのは銅羅湾書店の林栄基という方です。
林栄基さんはやはり中国に拘束されていました。しかし、命が奪われたわけではなく、現在は台湾にいます。そして、台湾で再び書店を開き、香港を守る為の戦いを再開するとのことです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
完