誰でも分かる!好景気にするには 後編
本稿は前編の続きなので、まだ見ていない人はこちらをどうぞ。https://miyukiyasmaro.hatenadiary.com/entry/2019/07/27/194236
さて、前稿にて、ケインズ先生の唱える景気を良くする方法を解説させて頂きました。その名も「雇用・利子及び貨幣の一般理論」。なかなか難しい名前でしたが、その内容はなかなか納得できるものであったように思います。
しかし、現在その理論への反論は少なからずあります。特に経済学の主流派は「ケインズは死んだ」という言い回しをします。という訳で、今回はその反論を取り上げ、それが正しいのかどうかを、なるべく分かりやすく検証して参ります。
■反論①「クラウディングアウト」
これは、(僕のような)消費税反対論者について、池田信夫という経済学者が批判した記事です。
彼らがよくいうのは「財政支出を増やすと景気がよくなって税収が増える」という話だが、これは大学1年の教科書で習う短期の理論だ。教科書を最後まで読めばわかるように、こういう効果は財政支出が終わったら消える。民間投資がクラウディングアウトされて潜在成長率が下がり、残るのは長期停滞と政府債務だ。それが日本の現状である。
http://agora-web.jp/archives/2036042.html
「クラウディングアウト」
必殺技の名前にしたいようなかっこ良い響きです。一体これはどういう意味なのでしょうか。
要するに「企業がお金を借りにくくなるよ」という話なのでございます。
国債を発行するということは、主に銀行からお金を持ってくるということになります。そうするとどんなことが起こるか、ゆっくりじっくり想像してみましょう。
(画 三幸靖麿呂)
銀行からお金を持ってくると、銀行にはお金が少なくなります。少なくなると、あまり多くの企業に貸すことができなくなるのです。そうすると「銀行からお金を借りる」ことが困難になり、同時に希少になります。希少な物は値段が高いですよね。したがって「お金を借りること」の値段が高くなります。つまり「利子が高くなる」わけです。
(利子……お金を借りると、借りたお金を何%か増やして返さなくてはなりません。その「何%」を利子というのです。)
あまり高い利子でお金を借りれない企業もいることでしょう。もし利子が高くなれば、そうした方々は金融市場(お金の貸し借りなどをする場所)から「締め出される」というわけです。この「締め出される」を英語にすると"Crowding out"というわけで、この現象をクラウディングアウトといいます。
ケインズの言った財政出動をやったら「クラウディングアウト」が起こる!
そうするとお金を借りれない企業が増えて投資とかが減る!
だから逆に景気が悪くなるのである!
結論!ケインズは死んだ!
というのが反ケインズ派の意見なのですが、実際のところどうなのでしょうか。
■三幸君の見解① クラウディングアウトは好景気にだけ起こる
では実際に、利子と国債のグラフを見てみましょう。
(https://youtu.be/noQwVDrdTSsより)
見辛くて申し訳ありませんが、青い棒グラフが我が政府の負債(漫画でいう国債)で、赤い折れ線グラフが長期金利(漫画でいう銀行が要求する金利)です。
あら不思議。国債がどんどん増えているにも関わらず、金利が下がり、横這いになっているではありませんか。クラウディングアウトが起こっていないのです。
これはよくよく考えると当然のことです。
何しろこの不景気です。銀行は企業にお金を貸し渋っている状態です。つまり、もともと融資(お金を貸すという行為)が活発でないので、銀行からお金をとってきても大して変わらないのです。
もちろん、このグラフの左端のような、景気の良い時期では金利が上がっています。
景気が良い時に国債を発行しまくれば、クラウディングアウトが起こる。しかし、景気が悪い時にはクラウディングアウトは起こらない。
言い換えれば「景気が良くなったら政府はお金を使うな。景気が悪くなったら使っても良い」
ん?
ケインズが言ってたこととそっくりじゃあないか!
どうやらこの検証は、ケインズの主張の裏付けとなったようです。
■反論②「リカードの中立命題」
消費者は将来の所得も考えて支出している。つまり、政府の財政状態に改善の見通しが立てば、将来の負担増を心配せずにお金を使うようになる。
逆に、いくら減税やバラマキ的な政策をしても、その後に増税がくると分かっていれば、政府支出は受け取った人の貯蓄に回されてしまう場合もある。つまり、政府としては思うような効果が期待できなくなるわけで、これは「リカードの中立命題」と呼ばれる。
「ニューズウィーク日本版 SPECIAL ISSUE世界経済入門2019」CCCメディアハウスより
つまりは、公共事業などの財政出動を行うと、却って景気が悪くなる場合がある。その理由は二つ。
①「財政がヤバくなる!」という不安が「将来に備えて貯金」という行動につながるから
②ケインズの主張通りに政策を行うとすれば、後で増税が来るということになる。そうすると「将来に備えて貯金」という行動につながるから
しかし、これも飽くまで仮説ではあります。
実際にグラフを見る必要があるのです。
■三幸君の見解② とりあえず今の日本には当てはまらない
この表は作るのにとっても苦労しました。
少し見辛いですが、点線がいわゆる「政府の借金」で、黒線がわたしたちの消費です。
これを見ると、なるほど、借金が増えるに連れて消費が落ち込んでいるようにも見えます。しかし、経済のグラフは重大な事件も考慮して見るべきです。
リーマンショックが起こったり、消費増税が実施されたら、消費は当然落ちます。
この部分を無視すると、「リカードの中立命題」と矛盾する部分が目立つようにも思われます。それが青い矢印です。この青い矢印の部分では、政府の借金とわたしたちの消費が仲良く坂を登っているようにも見えます。
今度は、財政出動と政府の借金との関係を見てみましょう。
鎖のような線が公共事業関係費の予算です。
緑の線は、公共事業関係費予算を適当に右へスライドさせたものです。公共事業の効果はタイムラグがあると言われているので、それを考慮しました。なるほど、公共事業とわたしたちの消費が仲良く歩んでいるようにも見えます。
結論としては、今の日本では「中立命題」の言う通りにはなっていません。つまり、やっぱりケインズの言う通り、財政出動を行うべきだと考えます。
「財政がヤバい」という危惧自体は蔓延しています。それにも関わらず中立命題が当てはまらない理由は二つ推理されます。
①あまりに不景気だとそれどころではない
②そういったことを考える人は、日本人には少ない
ただし、この推理が正しいとすれば、景気が良くなったり国民の意識が高くなったら中立命題が当てはまる状態になるかもしれません。
■脱線話 リカードという男
少し寄り道をしましょう。
先ほど「リカードの中立命題」という話を紹介しましたが、その名の通り、これはリカードという方がおっしゃったことなのです。
出身 イギリス ロンドン
1772年4月18日~1823年9月11日
この方は中立命題だけでなく「比較優位論」という理論も唱えていらっしゃいました。これは分業の重要さを論理的に証明したものです。
今日の経営者の多くも、「比較優位論」を参考にしているらしいです。
■反論③ 膨らんだ財政赤字
政治家にはそれぞれ選挙区があります。その選挙区で公共事業をして新しい道路をつくったり橋を架けたりすれば、建設業者の仕事が増えます。そのため選挙運動のときには、建設業者がその政治家を一生懸命応援します。
しかし、景気が回復し、増えた税収で借金を返さなければいけないから「公共事業は打ち切ります」と言ったらどうなるでしょう。選挙を応援してくれていた建設会社は仕事が減るわけですから、次の選挙は応援してもらえなくなって落選するかもしれない。一方で建設会社からは、税収が増えてゆとりが生まれたのだからそのお金でまた公共事業をすればいいじゃないかと言われる。
ケインズにしてみれば、政治家には理性と知性、教養があるから景気がよくなったら税収で借金を返すものと思っていたのに、実際の政治家はそうではなかったのです。こうして借金の返済は後回しになってしまう。財政赤字はどんどん増えていったのです。
そのどんどん増えた財政赤字というのが、こちらです。
(同書より)
「好景気にしたら増税をして、増えた借金を返済すれば良い」
これがケインズの主張でしたが、結局借金は増えてしまったようです。やっぱり財政出動はやめた方が良いのでしょうか。
■三幸君の見解③ 「ゲーム」をやろう
これは明治より続く我が国の債務の推移です。
黒線は債務の金額ですが、やはり長きに渡って増えてきています。
しかし、これはよくよく考えると何でもないことです。
なぜなら、我が国の借金だけが増えたのではなく、経済能力や物価も上昇したからです。
突然ですが皆様、テレビゲームはお好きでしょうか。特に「ドラゴンクエスト」とか「ポケットモンスター」などのRPGをプレイされたことはおありでしょうか。その思い出をよみがえらせてほしいのです。
RPGの世界では、序盤の敵は弱いですね。しかしゲームを進めるにつれてどんどん強くなっていきます。そして、いわゆるラスボスの攻撃力は、最初の敵の何十倍、何百倍もしたりするのです。しかし、それにも関わらず我々はゲームをクリアし、感動的なエンディングを体験することができます。なぜでしょうか?
理由は簡単ですね。
主人公のHP(数字の実質的な大きさ)や攻撃力(問題に対処する能力)が上がるからです。
国に例えれば、債務残高は敵の強さ、HPは物価、攻撃力はGDP(経済の大きさ)です。
どうでしょうこの見事な例え!自画自賛は滅多にしない性格なのですが、我ながら拍手喝采を受けるに値する表現だと思います。気に入りました!
というわけで先ほどのグラフをもう一度ご覧下さい。
実質債務残高は、HP(物価)の部分を考慮したものです。例えばHP10の主人公にとっての1のダメージは、HP100の主人公にとっての10のダメージと同じですね。実質債務残高はHPの割にどれだけの債務(敵)を抱えているかという話なのです。
ここからさらに、攻撃力(経済能力)を考慮してみましょう。
黒い線が実質負債対GDP比率、つまり、攻撃力とHPを考慮した「真の財政のヤバさ」
そしてこれは、ここ数年で減少しているのであります!
なんだあんまりヤバくないじゃん!
このグラフの時代は、一貫して増税ラッシュの時代です。また、安倍政権が成立する2012年までは、財政出動が削減されていました。安倍総理は当初、東北の復興の為ばっちり公共事業費を増やしていました。しかし、最近はだんだんその予算を減らし、消費増税もやっちゃったりしています。
一方黒線は、安倍政権の成立する2012年までは上昇(悪化)。そこからは急下降(改善)。ところが最近は下降(改善)する勢いが緩やかになり、これからは横這いから上昇に転じるかも。という状態なのであります。
つまりどういうことか?
ケインズの言う通りにしなければ財政がヤバくなり、ケインズの言う通りにすれば財政が良くなった!
やはり財政に面から見てもケインズは正しかったと考えます。
■あとがき
様々なデータから検証するに、やはりケインズは正しかったという結論になりました。本稿は、経済学の教科書とは大きく違う主張をすることになります。
ひょっとしたら、わたしの考えは間違っていたかもしれません。人の考えとはそういうものです。いつの時代でも、常識的な説の転覆が起こり、その度に科学が発達したのです。経済学も例外ではないと考えます。
ですので皆様にも、テレビに出演する経済学者、専門家の言うことを疑ってほしいです。それをきっかけに新しい発見をすれば、あなたの世界は何倍にも膨らむでしょう。
話が脱線したようなので戻します。
わたしの考える「景気を良くする方法」はジョン・メイナード・ケインズの「雇用・利子及び貨幣の一般理論」。
すなわち、減税と公共事業をはじめとする財政出動をばしばし進める。
「これ以上借金したら財政破綻が…」などの心配は大丈夫。
但し好景気になったらちゃんと増税と節約を行う。
以上で筆を置かせて頂きます。最後までお読み頂きありがとうございました。また来週お会いしましょう。
■附録
・漫画の制作風景
ちり紙と、百均のボールペンで頑張って作っています。下手くそですが、徐々に上達していると感じる今日この頃でございます。
完